《「二十四の瞳」と原作者壺井栄さん)》

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『二十四の瞳』は1952(昭和27)年、『ニュー・エイジ』に連載されたのち、光文社から刊行された。原作者壺井栄さんについては、西沢正太郎著『「児童文学」をつくった人たち〈8〉「二十四の瞳」をつくった壺井栄 ―壷井栄 人と作品』(1998年、ゆまに書房、194頁)に詳しく述べられている。壺井栄さんは1899(明治32)年8月5日、香川県小豆郡坂手村(現、小豆島町)で醤油樽作り職人である父岩井藤吉、その得意先の醤油屋の娘である母アサの五女として生まれた。長兄弥三郎は高松の師範学校を卒業し、付属小学校に勤めており、栄に文芸雑誌などを送り届けたことなどから、文学への芽立ちを育てていた(16頁)。『栄は小学校時代から校長の家の子守っこに雇われたりして、働きながら学校通いを続けた。』(13頁)が、13歳の4月からは麦わら帽子づくりの内職(16頁)、14歳のとき父の回漕業の手伝い(17頁)、15歳の春から村の郵便局に勤めた。この時代の苦闘の中で、栄は知らず知らずのうちに作家として貴重な宝を日々貯えていたといえよう(21頁)。村役場に勤め始めて3年後の1922(大正11)年、23歳で同郷の小説家壺井繁治と結婚する。その後自らの体験から1935(昭和10)年、36歳で『夫人文芸』に「月給日」を発表し、以後数々の小説を発表した。

『二十四の瞳』が書かれたことについて、『昭和三年四月四日から戦後昭和二十一年までの教え子の追跡を試みた『二十四の瞳』は、期せずして生きた昭和の児童史として、裏を返せば教育史として、読みとることができる。ここに描きだされた「一つの村」の子供たちは、この時代を生きた日本の子どもを象徴して、さながら縮図になっている。』(183頁)と指摘されているとおりである。

『二十四の瞳』の題名について、『ところで、作者自身の長編構想模索の中では、早くから、『二十四の瞳』の題名が浮かび上がっていたという。「この題名だけは二十年も前から私の胸の中で(あたた)められていた。つまり私の両親に育てられた十二人の子供のことを、子供の側から童話として書いてみたいと思ったが、情勢がかわり、計画だおれになっていた。しかし、いつかは書きたいと思い、その題名だけはそのままで、一つの家に育った十二人の子供の話ではなく、一つの村に生まれ育った十二人の同じ年の子供の物語になったのだ。」栄自身は、このように記している。この「一つの家」をめぐる物語は、『母のない子と子のない母と』によってとらえたあとなので、十二人は「一つの村」に譲ったということになったのかもしれない。この二十年の思いをこめた作ということは、「十年をひと昔というならば、この物語の発端は今からふた昔半もまえのことになる。」という書き出しの一文にもにじんでいる。』(183-184頁)ことも興味深いものだ。

また、十二人の子供達については、『それぞれの名まえを記し、大石先生のメモをもとに、その後の変転ぶりを加えていくと、いっそう十二人の群像の中で、個の成長、その曲折と挫折が、鮮やかに印象づけられてくる。

◦岡田磯吉   ソンキ 豆腐屋の息子、失明除隊。

◦竹下竹一  「りこうそう」米屋の子、戦死。

◦徳田吉次  キッチン

◦相沢仁太   「ずぬけて大きな子」、戦死。

「天皇陛下は押入れの中におります」と答える。

◦森岡 正  タンコ 網元の息子、戦死。

◦川本松江  マッちゃん 父大工、五年生一日で退学。

◦西口ミサ子 ミイさん「かわいらしいのね」 西口屋、夫戦死。その子勝子、二代教え子になる。

◦香川マスノ マアちゃん、返事「ヘイ」。町の料理屋兼宿屋「水月楼」の娘。

◦木下富士子 旧家の子。行方不明。

◦山石早苗   おとなしい。岬の本校の教師になる。

◦加部小ツル カベコッツル 船と、陸は大八車で町や村の用たしでまわる便利屋の娘。

◦片桐コトエ 五人きょうだいの長女、頭はよかったが苦労して二十二歳で病死。

こうして一読後は、もう一度細部に及んである一人を選び、その足跡を追い、次の一人へとすすめ、相互に比べてみるとよい。」(187-188頁)ことと思われる。いずれにしても、男の教え子5人のうち3人が戦死、1人が失明除隊、そして大石先生の夫も戦死という悲劇を見逃すことはできない。彼女には子どもはなかったが、『二十四の瞳』には次の世代に戦争へ反対するメッセージが込められていることを知った。

ここに取り上げた事柄以外に、壺井栄さんの人生とそれに折り込んだ作品について多くのことを学んだが、機会があればご一読をおすすめしたい書であった。

 

―壺井栄さんの50回の命日に この物語に思いをはせながら―

平成28年6月23日

横山和夫

Category: 事務所NEWS
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