《新入社員に贈ることば―その2》

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先月号に続いて,後半6項目を取り上げることとする。

 

  Ⅳ 今まで大切にしてきたこと  

 

10.大切にしている言葉(座右の銘)は何ですか。

何事にも努力すること 22人 14.1%
人などに感謝すること 13人 8.3%
苦労にうち勝つこと 10人 6.4%
何事も継続すること 8人 5.1%
仕事など忍耐すること 7人 4.5%
その他 96人 61.6%

 

私の80年間の人生は,どのような苦労にも耐え忍び,学業・資格取得・業務に人一倍努力を重ねてきたと自負している。とくに私の選んだ職業,私をとりまく人々を信頼して生きてきた。そしてすべてのことに“ありがとう”という感謝の気持を持ち続けてきた。

私のこれまでの人生を算式にすると,次のようになる。

 

人生=

 

アンケート結果では,この算式の五項目のうち,四項目が取り上げられている。

このほか,人生には運も大切な要素だが,それを呼び込むためには次の格言がある。

人の一生はやはり運だと思う。

実力があってもダメなものはダメ。

努力と根気、勉強、

こういったものが

運をとらえるきっかけになる。

(『田中角栄 100の言葉』,112頁)

感謝の気持ちの表し方の一つ目として,安田正氏は「感謝の気持はすぐ「声」に出せ」(安田正,前掲書,54頁)として,その具体例を次のように述べている。

『人にエレベーターのボタンを押してもらって「ありがとうございます」すら言えない社員が集う会社がどうやって存続しているのか謎ですが,確実にC社の社内の雰囲気は最悪のはずです。……それが一番わかりやすいのが,エレベーターでの「ありがとうございます」のひとことです。これが自然と出るだけで,お互い心象が十倍良くなります。「ありがとう」の精神は伝染し,周囲を快適な空間に変えるからです。』(安田正,前掲書,56-57頁)

二つ目として,ハーバード大学の心理学の教授であるタル・ベン・シャハー先生はその著書で,『いつも大学の授業と本の中で,理論を実際に考えたり行動に移してもらったりすることを提案して』いる(『ハーバードの人生を変える授業』成瀬まゆみ訳,大和書房,2015年,3頁)と述べている。

その著書は52項目から構成されているが,まず第1項目に「感謝する」ことをとりあげ,ある研究結果として,『感謝をしていた人々はよく眠れるようになり,より多く運動をするようになり,身体的な不調も減ったのです。』(同上,11頁)という事実を紹介され,第21項目の「「ありがとう」を言う」では,『感謝している誰かに,あなたの気持ちをつづった手紙を書きましょう。その人がしてくれたことを具体的にあげて,どういうふうに感じ,どういうふうに感謝しているかを書いてください。』(同上,101頁)としてその具体的な方法を次のように示している(同上,103頁)。

1.感謝している人の名前をリストアップする

2.手紙に,その人がしてくれたことを書く

3.そのときの気持ちや,いまどう感じているかも書く

4.手紙を出す(もしくは自分で届ける)

 

また,『感謝の手紙は毎週1回,少なくとも1カ月に1回は書いてください。』(同上)としているが,実際は毎週は無理であると思われるが,月に1回であれば可能であろう。なお,その方法はもちろん直筆とすべきであろう。

 

11.大切にしてきたこと,大切にしていることは何ですか。

人に思いやりをもって接すること 19人 12.2%
コミュニケーションをよりよくすること 17人 10.9%
感謝の気持ちを持つこと 13人 8.3%
あいさつを忘れないこと 9人 5.8%
その他 98人 62.8%

田中角栄氏は思いやりについて,次のように述べている。

「勤労」ということを知らないで

育った人は不幸だと思います。

本当に勤労をしながら育った人は

人生に対する思いやりもあるし、

人生を素直に見つめる

目もできてくるわけであります。

(『田中角栄 100の言葉』,52頁)

「勤労」は心身ともに苦労や失敗を伴うが,それを超える努力をすれば,相手に対する思いやりも生まれてくるものと思われる。

 

12.自分の中の決まり事(ルール)はありますか。

時間を守ること 23人 14.7%
物事を継続して行うこと 10人 6.4%
感謝の気持ちを持ち続けること 10人 6.4%
その他 113人 72.5%

「時間を守ること」を自分のルールにしている人は23人(14.7%)にも及び,守れそうで守れないものである。約束の時間の10分前には現場に着いていなければならない。このことについて,7で取り上げた岩瀬大輔氏は,『入社一年目の教科書』の最初の項目として,「何があっても遅刻はするな」を取り上げ,『新卒入社や転職初年度の社員に対して,受け入れる側が最初に持つのは,優秀な人かどうかという視点ではありません。「社会人として当たり前のことを,ちゃんとやれる人物か」人物を値踏みする目が注がれていることを強く意識してください。最初が肝心です。新人時代の印象でその後のキャリアが決まると思って行動してください。』(21頁)としている。

さらにそれは,『だらしのない新人にはこの仕事を任せるわけにはいかない。別の人間にやってもらおう。たった一度の遅刻によってチャンスを逃し,あなたの能力を発揮する機会さえ奪われてしまうこともあるのです。』(22頁)としている。

 

新入社員の皆さんと共に考える(4)

〔問7〕教え子のK君は10年かかって税理士の資格を得て,その登録を済ませ,私にその報告をしたいと電話がありました。その頃2~3日は多忙でしたので,出先または移動時間に会うことを提案したところ,「お忙しそうですから,2カ月先のゼミのOB会に出席しますので,その時に報告します。」と言いました。あなたがK君だったら,どうしますか。

相手に直接会って報告をし,お礼を言うべきである。それだけでよいのであり,時間は必要としない。その気持ちがあるならば,すぐ行動に移すべきである。

 

〔問8〕Nさんが結婚することとなり,披露宴・式にゼミの先生を招待することにし,招待状を送ってきました。あなたがNさんだったら,どうしますか。

過日,教え子の披露宴で双方の主賓も伴侶を初めて会った人である旨の話をした。礼儀として,招待状を二人で直接届けることが望ましいが,不可能な場合は,二人で電話をしてお願いし,招待状は相手の写真・経歴を添えて送るべきであろう。今までこのような人はあまりいなかった。礼儀をわきまえない人は,その人の人柄を疑われることが多い。

 

  Ⅴ 現在の生活の仕方について  

 

13.本音で話せる友人はどの位いますか。

0人 1人 0.6%
1~3人 57人 36.6%
4~8人 64人 41.0%
9~ 27人 17.3%
その他 7人 4.5%
平均 6.4人

若い人たちの友人の数は意外に多いが,年齢や社会経験とともに少なくなり,親友についてはその傾向がさらに強くなると思われる。なお,友人とは「親しく対等に交わっている人」(明鏡国語辞典)といい,親友とは,「きわめて親しい友」(同上)あるいは「信頼できる親しい友」(広辞苑)をいう。とくに親友について,田中角栄氏は次のように述べている。

平時で親友をつくるには

約束を守り、些細なことでも

キチンと処理をして

ウソをつかないことだ。

作り事の話をしても

人はすぐにそれを見破る。

(『田中角栄という生き方 』,51頁)

友人,親友とも年齢・学校や職場環境によって変わってくるが,また,それらの人に有形無形のいずれの期待を持たないことが肝要である。

 

14.休日はどの様に過ごしますか。

趣味を楽しむこと 101人 39.6%
友人に会ったり,飲食をすること 46人 18.0%
スポーツを楽しむこと 36人 14.1%
その他 72人 28.3%
255人 100.0%

 

サラリーマンは,休日は仕事から離れてのんびりする人が多い。その休日の過ごし方について,安田正氏は「休日こそきっちり行動計画を立てよ」という項目で,『誰にも会わず,非生産的な時間を浪費するだけの休日では,心の健康状態は悪化していく。一方,寝不足は解消できたとしても体はなまっていくばかりで疲れも抜けにくくなり,いずれ仕事に対しても悪影響が出てきます。第一,勉強や人脈づくりといった,オフの時間にしかできない自己投資を疎かにしているわけですから,社会人としての成長も望めません。例えば,土日が休みであれば,半日は家事または家族サービスの時間,半日は趣味の時間,半日は交際の時間(飲み会・交流会など),半日は自己投資の時間(読書・勉強会・美術館巡りなど)というように,四等分してみてはどうでしょう。それぞれに4時間分割り当てれば,かなりのことができるはずです。』(安田正,前掲書,151—152頁)とされている。このように思いきった区切りで休日を過ごせば最も有益な休日となろう。

 

15.LINE,FacebookなどのSNSを含め,スマホを1日何時間使っていますか。

0時間 1人 0.6%
1~2時間 49人 31.4%
3~5時間 63人 40.4%
6~10時間 32人 20.5%
10時間~ 11人 7.1%
平均 4.8時間

スマホの多くはあまり急務とはいえない友人との交流あるいはゲームであると思われる。電車などの乗り物の中でも半分近い人がスマホをいじっている。スマホによる事故も報じられることがある。1日3時間以上使っている人は「スマホ依存症」とみられる。スマホを持たない私は,乗り物の中では読書をする絶好の時間だと思っている。社会人となった今,スマホ依存症から脱してほしいと思われる。

 

新入社員の皆さんと共に考える(5)

〔問9〕あなたにとって「職場」とは何でしょうか?

好き嫌いにかかわらず,与えられた仕事を時間内にしなければならないが,それについては給料が支払われる。そこで体験したことは,すべて自分のものになる。大変な仕事ほど大切にしたいものである。

 

〔問10〕

(1)あなたがアルバイトしたとき,1時間あたりの給料はいくらでしたか?

(2)入社したあなたが年収300万円となったとします。そのとき1時間あたりはいくらになると思いますか?

(イ) 従業員は給料のおよそ80%の「手取り」で考える。

(ロ) 企業は総額で考える。

  ① 給料手当 (100.0) ⑤ 通勤費  (-)
  ② 賞    与 (25.0) ⑥ 賞与引当費  (10.5)
  ③ 法定福利費 (17.5) ⑦ 退職引当費   (1.5)
  ④ 福利厚生費 (1.3) ⑧ 教育研修費   (2.2)
      合   計 (158.0)

(注)年給料に含まれるものは,①,②,⑥の135.5である。

ここで,企業が考えている「人件費」と従業員が考えている「給料」におよそ2倍の開きがあることがわかる。年に250日,1日あたり7.4時間の就業時間があるとすると,年間労働時間は年間勤務日数250日×7.4時間=1,850時間となり,さらに1時間あたりの給料を考えてみると,年間給与手当3,000,000円÷1,850時間≒1,620円となる。

さらに,1分あたりの給料で考えてみると1分あたり給与は1,620円÷60分=27円,1分あたり人件費は27円×158.0÷135.5=31.48円ということになる。仮にタバコやトイレで4分仕事から離れれば,それに対する人件費は4分×31.48円=125.92円となる。

時間について重要なことは,「時間を大切にする」,「仕事の効率を上げる」の二つである。

 

  Ⅵ  おわりにあたって  

 

人生の歩み方は,人それぞれである。どのように歩んだらよいか,それは自ら信じた道をあわてず,怠けず,一歩一歩進むことである。そして私のような歳になって,人生を振り返り,もしもう一度生まれ変わることができたとしたら,今までと同じ人生を歩みたいと思うことができれば最高ではないだろうか。

弘兼憲史さん(1947~,早稲田大学法学部卒業後,松下電器産業(現,パナソニック)勤務を経たのち,1974年27歳で漫画家デビュー,「課長島耕作」で講談社漫画賞などを受賞)は,『男子の作法』(SBクリエイティブ,2017年2月刊)で「人生自己責任 生まれるときも死ぬときも ひとりきり」として生き方について次の5つを取り上げている。

(1)ストレスを感じない生き方

『外因的なストレスが起こったとしても,「ま,いいか」の一言で現実を受け入れつつ,開き直って解消してきた。だから人間は「思いつめないで生きる」ことが大事だと思っている』(171頁)

(2)感動を失うな

『何歳になっても好きなものは好きでいい。感動を追い求める気持ちを失わないようにしてほしい。』(175頁)

(3)邪悪なプライドは捨てろ

『大切なのは,今までどんなことをしてきたかということより,これから何ができるかということだ。そこで邪魔になるようなプライドは,さっさと捨てたほうがいい。』(177頁)

(4)究極のプラス思考

『人生を楽しむための秘訣。これはもう「プラス思考」に尽きる。考え方ひとつで人生は変わるのだ。』(177頁)

(5)幸せの尺度は「人それぞれ」

『僕は幸せになるための3つの信条として「まあいいか」「それがどうした」「人それぞれ」ということを言ってきた。』(180頁)

これについては,『たとえば,不幸にも会社でリストラの対象になって自主退社を余儀なくされたとする。落ち込んでいても道は開けない。「まあいいか」と現実を受け止め,「それがどうした」と開き直ってエネルギーを充填したら,また前向きになって次の道を開拓することができる。「人それぞれ」というのは,人と比べないということだ。幸せの尺度は,人それぞれ違う。』(180—181頁)という例が示されており,さらに,『他人から不幸だと思われても,自分が幸せと感じていたらそれでいいじゃないか。自分の尺度で幸せだと思える生き方が一番いい。そのために必要なのは,他人に勝つことでなく,自分に勝つことだ。』(181頁)と述べられており,新入社員の皆さんへの力強いメッセージとなったであろう。

 

―幸せや満足の大きさは人それぞれ違いはあるが,

新入社員の成長を心から願いながら―

平成29年4月9日

横山和夫

Category: 職員Blog
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